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富士山頂で上空の化学反応を調べる

−雲に取り込まれた粒子を観測−


緒方 裕子 (早稲田大学創造理工学部)

筆者の所属する研究室では、毎年夏季(7-8月)に1-2週間程度の集中観測を、富士山頂、富士山麓太郎坊、早稲田大学の3地点で同時に行っている。山頂では富士山測候所に宿泊し、山麓ではテントに泊まりこんで数時間毎に観測を行う。研究室全員が一丸となって取り組む夏の一大イベントである。山頂の測候所や山麓のテントで学生と寝食をともにし、協力し合って観測を行うことで、より絆が深まっていると感じる。また、他大学や研究機関の研究者の方など、様々な分野の人と知り合う貴重な機会でもある。

研究室としては雲や降水、大気中の粒子(エアロゾル)、ガスなど様々な物質の観測を行っている。その中でも、筆者自身はエアロゾル中の鉄について研究を行っている。エアロゾルは、外洋域で海洋生産性を制限している可能性のある鉄の主要な供給源と考えられている。 さらに、大気中を輸送される過程で様々な物質と反応し、鉄の溶解性が変化すると考えられている。鉄の溶解性は、海洋での鉄の利用可能性に影響を及すため重要であるが、その反応過程など詳細は明らかになっていない。

その中でも、筆者は雲を介した反応に注目している。雲は雨などよりもpHが低く、上空にあるため光化学反応の影響も受けやすい。雲の観測を行うには、雲が発生するような高高度での観測地点が必要であり、富士山頂は雲を経時的に観測できる貴重な場所である。 雲は白色にみえるが、その中には様々な物質が含まれており、雲水中の化学成分は、どこを通って輸送されてきたかによって、大きく変化する。山麓で採取された雲水は、中国などのアジア大陸上空を輸送されてきた場合に、黒っぽい色になることがある。この中には鉱物粒子や煤(スス)のような黒色の粒子を含め、様々な物質が含まれている。

筆者が富士山観測に携わるようになって5年目であるが、それ以前は、富士山は日本一高い山という認識しかなく、実際に登ったことも実物を見たこともなかった。登山の経験もほとんどなく、初めて観測で山頂に登ったときには、徒歩登山で7時間近くかかってしまったが、今年は5時間を切ることができた。 しかし、登山後の山頂での作業が目的であり、ゆっくりすることはできない。数時間毎に試料交換などを行い、濃い雲が発生した時には1~2時間毎に試料交換を行うこともある。雲発生時は風も強く視界も悪いため、外に出るだけでも一苦労である。苦労して採取した雲水試料から新たなことが明らかになると、大変だったサンプリング作業も一気に報われる。



写真 (左) 富士山測候所3号庁舎西側で観測する筆者と学生(廣川諒祐)撮影 稲垣純也様 (右上)富士山測候所でのサンプリングの様子 (右中央))山麓太郎坊でのサンプリングの様子 (右下)富士山麓太郎坊で採取した雲水・・・右から2番目が黒っぽい色の雲水


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