観測機器設置状況(山頂1号庁舎2階)
|
|
黒色炭素粒子の観測 |
微粒子の光散乱の観測 |
|
オゾンの観測 |
富士山頂における黒色炭素粒子の観測(兼保直樹)
[図の説明]
2007年夏季観測の中間結果。山谷風で午後遅くに濃度増加する状況が7/23 ,7/25, 7/26にみられる。台風5号通過時には非常に低濃度となるが、その後にいわゆる夏の天気となり、再び日中に濃度増加する状況が8/4, 8/5に再開している。
[この観測について]
・黒色炭素(black carbon)粒子は、燃料などを燃やしたときに不完全燃焼で発生する黒い微小な粒子で、いわゆる“すす”のことです。
・そのサイズは、0.1〜1μm(マイクロメートル=百万分の1メートル)と小さいため、重力で地面に落ちることはほとんどありません。このため、発生してから長い時間大気中を漂い続け、長距離を輸送されます。現在、CO2などの温室効果気体による地球温暖化が懸念されていますが、黒色炭素は太陽光(短波放射)を吸収する能力が高く、温室効果気体のように大気を暖める能力があります。そのため、黒色炭素が地球規模でどの程度広がっているのか、どのような季節変化をするのか、どのようなルートを通って発生源地帯から太平洋上などのバックグラウンド地域に運ばれるのかを調べることが重要となり、富士山頂はそのような情報を得る上で絶好の場所です。
・富士山頂の測定では、テープ状のフィルターに1cmの直径のスポットで空気を吸引して大気中の微粒子を集め、その光透過率の時間変化を測定することで黒色炭素濃度を1時間毎に自動測定しています。
富士山頂における微粒子の光散乱の観測(兼保直樹)
[図の説明]
2007年夏季観測の中間結果。黒色炭素と同様に、山谷風で運ばれた物資により午後遅くに散乱係数が増加する状況が7/22 ,7/23, 7/24にみられる。台風5号通過時の散乱係数低下、その後、再び日中に散乱が増加する状況が8/4, 8/5に再開している点も黒色炭素と同様である。
[この観測について]
・大気中に漂う微粒子(エアロゾル)粒子のうち、太陽光の波長と大きさの近い0.1〜数μm(マイクロメートル=百万分の1メートル)のものは、光の進行方向を変え、前後左右に散らす性質があります。これを”散乱”と呼び、ホコリっぽい暗い部屋で懐中電灯を照らしたときに光の筋が見えるのはこの散乱のせいです。遠くの景色が霞んで見えなくなるのも微粒子による散乱のせいです。浮世絵では江戸から富士山がよく見えていたことが伺われますが、大気汚染により空気中の微粒子の数が増えたため、現在では東京から富士山が見える日はめったになくなりました。
・現在、CO2などの温室効果気体による地球温暖化が懸念されていますが、大気汚染などにより大気中の微粒子の数が増えることで散乱が増えると、後ろ向きの散乱により宇宙空間にはね返えされる太陽光の割合が増え、結果として地面に届く太陽光の量が減少し、温室効果とは逆に大気を冷やすことになります。そのため、気候変動の予測の精度を上げるためには、微粒子の量(数濃度)やサイズの観測とともに、微粒子による光散乱の程度の観測が必要となります。
・富士山頂では、内部を黒く塗った筒の中程に装着した電球で筒内を横から照らし、筒の底の部分で光の強度を測ることによって、筒の中に導入された外気に含まれる粒子による全方位への散乱される光を積算して測定します(積分型ネフェロメータ, Radiance Research M903)。
富士山頂におけるオゾン(加藤俊吾)
[図の説明]
・2007年夏季観測のオゾン濃度の中間結果。10ppb程度の低濃度から70pbb程度の高濃度までかなり大きな濃度変動を示しています。台風5号通過前後(8月2日,3日)にはかなり低濃度となる期間が継続しています。台風通過前(7月31日)には高濃度となっています。また、7月20日や8月6日には数時間にわたり高濃度が観測されています。地上の汚染大気由来かオゾン濃度が高い成層圏由来のものなのか、他の大気中物質の測定結果と比較して判断をする必要があります。
[この観測について]
・大気中のオゾンは高さによって大きく違った働きをします。、空の高いところ(成層圏)にあるものは有害な紫外線をさえぎる働きがあり、いわゆる「オゾン層」と呼ばれたりして濃度が減少しては困る「善玉」です。一方、地上付近などの低いところにあるオゾンは生物や植物に悪影響を及ぼします。夏によくおこる光化学オキシダント(光化学スモッグ)注意報はこの地表付近のオゾンが高濃度になってしまうことで、地表付近のオゾンは「悪玉」です。
・オゾンホールが出来てオゾンが減ってしまうことが心配されていますが、これは成層圏のオゾンのことです。反対に地表付近のオゾンは増加してきており、問題となってきています。富士山での測定から、東アジアの平均的なオゾン濃度、都市域からの影響、成層圏からの影響といったさまざまな大気化学・大気輸送現象をとらえることができると期待されます。