富士山測候所を活用する会
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夏期観測2023

Summer Observation
富士山頂における一酸化炭素, オゾン, 二酸化硫黄の夏季の長期測定と火山ガスの越冬観測
加藤俊吾(東京都立大学)
富士山頂の測候所に一酸化炭素(CO)計、オゾン(O3)計、二酸化硫黄(SO2)計を設置し、大気中濃度の連続測定を行う。COは汚染大気輸送の指標となる。O3は汚染大気の光化学反応の進行度合いにつての指標となり、実際に大気環境に悪影響を与える物質である。また二酸化硫黄(SO2)は化石燃料燃焼以外にも火山から放出され、噴煙の影響をとらえることができる。また、富士山の火山活動を監視する防災的な目的で、夏季にガスセンサーにより登山道で火山性ガスの測定を行う。さらに、センサーおよび通信機器を蓄電池により駆動して火山性ガスの越冬モニタリングを行う。
プロジェクト詳細
大気中CO、O3およびSO2の連続測定を行う。COは1-2ヶ月と比較的大気中での寿命が長いため、汚染大気発生源の影響を受けているかの指標として使える。そのため、汚染大気の長距離輸送をモニタリングするにはCOの連続測定を行う必要がある。一方O3も同様に汚染大気で高濃度となるが、汚染大気が光化学反応をおこすことにより生成するため、空気塊が経てきた履歴にも影響をうける。また、高濃度のO3そのものが植生や人体などに悪影響を与えるため、日本(本州)のリモート地域であると考えられる富士山頂において、どの程度のO3濃度であるのかを把握することは重要である。SO2は石炭燃焼などの人為起源発生源や火山の噴火により放出されるが、二次粒子生成に関与する物質としても重要である。これまで夏季の富士山頂においてこれらの大気濃度の連続測定をおこなってきたが、2023年も引き続き観測を行う。また、富士山の火山活動を監視するという防災の観点から、小型のガスセンサーを携帯して登山道で火山性ガスの測定を行う。さらに、夏季だけでなく通年での火山性ガス観測を行うため、蓄電池で駆動する小電力のガスセンサーおよび通信機器を閉所まえに設置し、リアルタイム観測を翌年までおこなう。
期待される成果
COおよびO3濃度変動から富士山頂がその時点でどのような大気の影響を受けているのか知ることができ、他の研究グループによる大気微量成分測定の解析にも大いに参考になる。また、CO,O3を同時に測定することにより、COが低濃度で清浄だがO3濃度が高くなる高高度大気の影響についても検討することができる。SO2については桜島や浅間山などからの噴煙と考えられる高濃度を2013-2022年に観測しており、活動活性化が懸念される火山からの噴煙の輸送状況について知ることができる。また、富士山自身から放出される火山性ガスも捉えることができるはずであり、富士山の火山活動をいちはやく把握して防災に役立てることが期待される。夏季は多数の登山者がいるため、夏季の登山道での火山ガス測定が有用な情報になる。
社会への還元
連続測定を行った結果を、NPOのwebサイト上にリアルタイムで速報値を出すようにする。汚染大気の長距離輸送などの状況についてwebサイトを通じて一般に情報発信をする。とくに火山性ガスであるSO2とH2Sのリアルタイムデータは富士山の火山活動に関係するため、防災の観点からも利用できる。
富士山測候所を利用する理由
富士山頂は近傍の大気汚染発生源の影響を受けにくいため、自由対流圏の大気を測定することができる地点である。そのため、近傍の発生源の影響は受けずに汚染大気の長距離輸送の影響をとらえるのに適した貴重な観測地点である。測器の安定した運転のためには電源の確保、環境が整備された部屋、チェックを行うことができる人員などが必要となるが、富士山測候所を利用しての測定はこれらを満たしている。
夏季以外においては商用電源が利用できないが、小電力のガスセンサーおよび通信機器で蓄電池による電源供給により越冬観測を行い、富士山頂の火山活動を監視して、防災に役立てることができる。
今期の新たな取り組み内容
【研究申請をしている予算が獲得できた場合には、山頂において水素測定測器の設置および定期的に大気を金属容器に採取し、大気中の水素濃度および揮発性有機化合物の観測を行いたい。大気採取の頻度は3-5日に一回程度を想定している。】
リアルタイムモニタリング
CO, O3 濃度
富士山頂のCO(一酸化炭素)およびO3(オゾン)濃度をリアルタイムモニタリングしています。
データは60秒間隔で更新されます。
解説
一酸化炭素(CO)は燃焼により放出されるので、汚染大気が長距離輸送されてくる指標になります。
オゾン(O3)は汚染大気から生成し、植生や人にも悪影響を及ぼし、高濃度となると光化学オキシダント(光化学スモッグ)注意報が発令されます。なお、富士山頂では上空の成層圏オゾンの影響を受けて高濃度となることもあります。
左の縦軸はCOについては1.0が1000ppb、O3については1.0が200ppbに相当します。また、COは定期的に導入しているゼロガスを差し引いたものが外気のCO濃度となります(青線の凸凹の差分がCO濃度になります)。
SO2 濃度
富士山頂のSO2(二酸化硫黄)濃度をリアルタイムモニタリングしています。
データは60秒間隔で更新されます。
解説
二酸化硫黄(SO2)は火山ガスに含まれている有毒ガスです。
浅間山など遠方からの火山ガスの輸送をとらえることができます。
また、富士山自体から火山ガスが放出されることがあれば濃度上昇がおこるはずです。
左の縦軸は1.0が4ppbに相当します。また、定期的に導入しているゼロガスを差し引いたものが外気のSO2濃度となります(緑線の凸凹の差分がSO2濃度になります)。
地磁気(テスト中のため非公開)
富士山頂において火山噴火予測に資する全磁力観測を目指し、その第1段階として測定機器動作フィージビリティースタディを測候所内で行っています。データ転送はLPWA通信の SONY社 ELTRES を用いています。
※本観測は通信・Web表示を含めた装置全体のシステムフィジビリティーの確認テストであるためデータプロットは公開しておりません。取得データをご覧になりたい方は、事務局までお問い合わせください。
プロフィール
氏名:加藤 俊吾
所属:東京都立大学
学術論文(査読あり)
1) 山脇拓実,大河内博,山本修司,山之越恵理,島田幸治郎,緒方裕子,勝見尚也,皆巳幸也,加藤俊吾,三浦和彦,戸田敬,和田龍一,竹内政樹,小林拓,土器屋由紀子,畠山史郎, 富士山体を用いた夏季自由対流圏における雲水中揮発性有機化合物の観測, 大気環境学会誌, 55, No5 (2020)
2) R. Wada, Y. Sadanaga, S. Kato, N. Katsumi, H. Okochi, Y. Iwamoto, K. Miura, H. Kobayashi, M. Kamogawa, J. Matsumoto, S. Yonemura, Y. Matsumi, M. Kajino, S. Hatakeyama, Ground-based observation of lightning-induced nitrogen oxides at a mountaintop in free troposphere,Journal of Atmospheric Chemistry, 76(2), 133-150 (2019), doi: 10.1007/s10874-019-09391-4
3) 和田龍一, 定永靖宗, 加藤俊吾, 勝見尚也, 大河内博, 岩本洋子, 三浦和彦, 小林拓, 鴨川仁, 松本淳, 米村正一郎, 松見豊, 梶野瑞王, 畠山史郎, NOx酸化物質(NOz)計測手法の開発と山岳地域における実大気への応用, 分析化学, 67巻6号, 333-340 (2018)
4) C.-F. Ou-Yang, C.-C. Chang, J.-L. Wang, K. Shimada, S. Hatakeyama, S. Kato, J.-Y. Chiu, G.-R. Sheu, N.-H. Lin, Characteristics of Summertime Volatile Organic Compounds in the Lower Free Troposphere: Background Measurements at Mt. Fuji, Aerosol and Air Quality Research, 17(12), 3037-3051, DOI: 10.4209/aaqr.2017.04.0144,(2017)
5) Shungo Kato, Yasuhiro Shiobara, Katsumi Uchiyama, Kazuhiko Miura, Hiroshi Okochi, Hiroshi Kobayashi, Shiro Hatakeyama, Atmospheric CO, O3, and SO2 Measurements at the Summit of Mt. Fuji during the Summer of 2013, Aerosol and Air Quality Research, 16, 2368-2377, DOI: 10.4209/aaqr.2015.11.0632 (2016)
6) 小川智司, 大河内博, 緒方裕子, 梅沢夏実, 三浦和彦, 加藤俊吾, 富士山体を利用した夏季自由対流圏におけるガス状水銀の観測:2014年夏季集中観測結果, 大気環境学会誌, Vol.50, No.2, 100-106 (2015)
7) 山本修司,大河内博, 緒方裕子, 名古屋俊士, 皆己幸也, 小林拓, 加藤俊吾, 2012年夏季の富士山山頂および山麓における大気中揮発性有機化合物の挙動, 大気環境学会誌, vol.49, No.1, 34-42 (2014)
8) Murata, K. & Zhang, D. Concentration of bacterial aerosols in response to synoptic weather and land‐sea breeze at a seaside site downwind of the Asian continent. J Geophys Res Atmospheres 121, 11,636-11,647 (2016).
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