富士山測候所を活用する会
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夏期観測2022

Summer Observation
富士山頂における雲水および降水試料中の氷晶核の計測
村田 浩太郎(埼玉県環境科学国際センター)
氷晶核は雲内で降水過程の開始に寄与する。しかし、氷晶核と降水との直接的な関係性は未だに実証されていない。本研究では富士山頂の雲水並びに雲近傍の降水を採取することで、雲内に存在しうる氷晶核の定量および種類の推定を実施する。
プロジェクト詳細
雲の氷晶を形成する際に不可欠な氷晶核は、雲の寿命や光学特性、降水過程において重要な要素であるが、低濃度であることやエアロゾル種ごとのはたらきが変化に富んでいることから、知見が不足しているのが現状である。
とくに、微生物などの生物氷晶核は鉱物など他の氷晶核に比べて著しく氷晶核形成能力が高く、少数でも雲物理に影響する可能性があるため、実際の上空での観測が求められている。
このような背景から、2018年のトライアル利用から2019年の山頂観測を経て、2021年には1ヶ月半にわたる大気中微生物組成と(生物)氷晶核数濃度の観測を実施することができた。
今年度は、より氷晶核の雲物理や降水への影響評価に関連する情報の取得に重点をおき、雲水および降水試料に着目して(生物)氷晶核の計測を行う。
さらに、試料中の微生物の解析も実施する。

生物氷晶核に着目した微生物の観測は少なく、とくに上空大気については単発的な飛行機観測や山岳観測に情報が限られている。
山岳域としてフランスのピュイ・ド・ドーム(1,465 m)、次いでスイスのユングフラウヨッホ(3,466 m)、アメリカのストームピークラボ(3,200 m)、中国の泰山(1,534 m)で観測事例がある。
山岳域において降水に含まれる氷晶核の研究はきわめて少ない。本研究は3776 mの標高で雲ならびに降水を採取することにより、氷晶核と降水プロセスとの関係性を観測から探る新しい研究である。
富士山測候所を利用する理由

・雲の中の氷晶核を採取することが可能である
・雲に近いため、降水中には大気中からウォッシュアウトされたエアロゾル粒子をあまり含んでいないことが期待される
・将来的に御殿場・太郎坊での結果と比較ができるため、降水過程における氷晶核の増加/減少を大まかに推定できる


社会への還元

・豪雨の雲物理的メカニズムの解明およびそこから派生する豪雨低減・回避策のための基礎的知見が得られる
・これらの結果は学会や論文で発表するほか、NPOや所属機関のアウトリーチとしても発信する。
今期の新たな取り組み内容

2018年のトライアルによって富士山頂大気中バイオエアロゾルに対しての微生物遺伝子解析の有効性を確認し、2019年の研究では氷晶核数計測装置を完成させたことによって相互比較が可能となった。
続く2021年度はよりサンプリング周期を短くし、かつ、1.5ヶ月間の連続的な試料採取を実施し、微生物と氷晶核の昼夜変化の観測を実施することができた。これにより山頂大気中の氷晶核数濃度に関しては豊富な情報を得ることができた。
そこで、今期は雲水・降水の方に新たに着目し、これまで用いてきた解析手法を適用することで、より雲物理に結びつく情報の取得を試みる。
プロフィール
氏名:村田 浩太郎
所属:埼玉県環境科学国際センター
学術論文(査読あり)
1) Xu, L., Fukushima, S., Sobanska, S., Murata, K., Naganuma, A., Liu, L., Wang, Y., Niu, H., Shi, Z., Kojima, T., Zhang, D., Li, W. Tracing the evolution of morphology and mixing state of soot particles along with the movement of an Asian dust storm. Atmos Chem Phys 20, 14321–14332 (2020).
2) Hu, W., Murata, K., Fan, C., Huang, S., Matsusaki, H., Fu, P. & Zhang, D. Abundance and viability of particle-attached and free-floating bacteria in dusty and nondusty air. Biogeosciences 17, 4477–4487 (2020).
3) 長沼歩、村田浩太郎、胡偉、小島知子、張代洲 LIVE/DEAD BacLight染色による浮遊細菌の濃度と生存率の測定.エアロゾル研究 34, 212–218 (2019).
4) Hu, W., Murata, K. & Zhang, D. Applicability of LIVE/DEAD BacLight stain with glutaraldehyde fixation for the measurement of bacterial abundance and viability in rainwater. J Environ Sci 51, 202–213 (2017).
5) Hu, W., Murata, K., Toyonaga, S. & Zhang, D. Bacterial abundance and viability in rainwater associated with cyclones, stationary fronts and typhoons in southwestern Japan. Atmos Environ 167, 104–115 (2017).
6) Hu, W., Murata, K., Horikawa, Y., Naganuma, A. & Zhang, D. Bacterial community composition in rainwater associated with synoptic weather in an area downwind of the Asian continent. Sci Total Environ 601, 1775–1784 (2017).
7) Hu, W., Murata, K., Fukuyama, S., Kawai, Y., Oka, E., Uematsu, M. & Zhang, D. Concentration and Viability of Airborne Bacteria Over the Kuroshio Extension Region in the Northwestern Pacific Ocean: Data From Three Cruises. J Geophys Res Atmospheres 122, 12,892-12,905 (2017).
8) Murata, K. & Zhang, D. Concentration of bacterial aerosols in response to synoptic weather and land‐sea breeze at a seaside site downwind of the Asian continent. J Geophys Res Atmospheres 121, 11,636-11,647 (2016).
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