富士山測候所を活用する会
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理科実験教材の開発 - 1

古田 豊
富士山頂の自然を観照したい。理科実験を通して自然の振る舞いを探るには、どのような実験を工夫したらよいか。日本最高峰の地で行う実験と同じ実験を学校で行い、結果や過程を比べるという視点で、自然を理解する教材づくりに活用しています。
新田次郎の小説『富士山頂』に、ヘリコプターでレーダードームを運ぶ際の困難が描写されています。NHKの番組『プロジェクトX』の第1回にも取り上げられました。これを模型のプロペラ浮上装置で実験できないかと考えました。富士山頂では下界より軽い荷物しか運べないそうです。運べる限界の重量はどの程度だろう。
そんな疑問を抱いていた頃、ある製品が発売されました。2012年夏、『ドラえもん ふしぎのサイエンス Vol.1』 の付録に『手回し発電タケコプター』がついていました。早速購入し学校で浮上の練習を始めました。教材にするには、何をどのように測定するかなど、遊ぶ場合とは異なる準備が必要です。現在までの結果は、自重約7gと重量物合計で旧富士山測候所では最大11g、学校(標高約35m)では最大15gまで浮上しました。タケコプターでは軽い荷物しか運べなかったという実験事実を出せて、高校物理の選択授業の教材にしました。
2013年夏、赤外線コントロールヘリコプターで試しました。学校で操縦練習をし、ワクワクして山頂で実験をしたときの衝撃は忘れられません。プロペラは回りました。浮上しません。床で斜めに傾き横滑りしました。荷物を運ぶどころではありません。自重17.1g。・・・秋に高校生が富士宮口六合目(標高2,493m)で同じ実験を行い、約5~10cm浮上することを確認しました。模型ヘリコプターの標高に伴う浮上高の変化に関する実験教材の開発は続きます。
自然放射線の飛跡を見る霧箱の実験では、飛跡の特徴を分類し、どんな頻度で現れるかを動画で探ります。複数の高校生が同じ動画を見て、1分当たりの飛跡を調べます。 高校生が発想した3件の実験「空気加圧に伴うペットボトルの栓の外れ」、「音速測定器による空気中の音速測定」、「純水の沸点測定」も行いました。立教新座高校生と十文字高校生が合同で予備実験と検討を行い研究を進めています。
登山者が簡単にできる実験候補は、飲み終えてゴミとなったペットボトルに富士山頂で空気を詰めて持ち帰ります。私が山頂で2ℓのペットボトル6本に詰め、高校生は富士宮口六合目からも同様に空気を持ち帰り、ボイル・シャルルの法則を適用して考えました。その際、気象庁のホームページから富士山頂の10分おきの気圧と気温と相対湿度のデータを入手して使いました。この教材は高校物理と化学の授業で使えます。
その他、「風を釣る」「風に聴く」「ボールの弾み」「軽い物体の落下」「肺活量測定」などの実験教材づくりに取り組んでいます。また元教員の知人が茶道具を持参し、山頂で盆略点前の茶会を楽しみました。約90℃の湯で点てる茶からもどんなサイエンスを紡ぎ出せるか楽しみです。
朝の太陽からの光が、雲の層を映し出しました。濃淡の分布が木星を連想させます。陽光は大気中をどのように屈折して目に届いたのでしょう。雲の分布と光の屈折の教材にします。どの瞬間が日の出なのか、登山者が挙げるご来光時の歓声が数十秒間、間延びしました。(2012/7/29 4:47撮影) 富士山頂に設置した霧箱で捉えた放射線の飛跡です。釣り針状の形をした飛跡を初めて見ました。太くてまっすぐな飛跡(アルファ放射線)と細くて縮れた飛跡(ベータ放射線)が多いなか、高校の放射線教材では紹介されにくい飛跡だと思います。研究者にも見ていただきこの飛跡の振る舞いの謎を探ります。
プロペラで浮上をする『手回し発電タケコプター』が上がる高さは、標高3,773m付近では学校より低く、運べる荷物の重さも軽かったです。 ゴミのペットボトル6本に、富士山頂で空気を詰めて学校へ運び、気体の状態(ボイル・シャルルの法則で圧力・体積・温度の関係)を学ぶ教材にしました。学校の大気圧は、富士山頂で2ℓの空気を1.37ℓにつぶし、富士宮口六合目2,493mの大気圧で高校生が詰めた2ℓの空気を1.66ℓにつぶしました。
「風を釣る」実験
ヘリウムガス入りバルーンを釣竿につけ、空へ浮かせます。無風のとき、左上の大きなバルーンは浮きましたが、右下の小型の星型バルーンは沈みました。竿がしなるほどの風ではどちらのバルーンも紐が張り、駿河湾方面へ向かう風を捉えました。(2013/8/22 17:40撮影)
※ 「自然が先生 ― 富士山頂で教材づくり」 古田 豊(立教新座中学校・高等学校)
  会報誌『芙蓉の新風』Vol.8より転載しました。
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