富士山測候所を活用する会
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富士山登山道で放射線を測る

-福島第一原子力発電所の事故を受けて-
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保田 浩志(放射線医学総合研究所)
筆者らの研究チームでは、航空機乗務員の宇宙線による被ばくを適切に管理することを狙いとして、2007年より富士山の山頂及び山麓において宇宙線の観測を毎夏実施しています。このたび、本年(2011年)3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故により、大量の放射性物質が大気へ放出され広く拡散したことから、富士山で放射線レベルの上昇がないかを実測により調べました。

測定は、当NPOが旧富士山測候所で夏季の実験を始めるのに先立ち、2011年7月9日(土)の4時半から18時半にかけて行いました。早朝まだ暗いうちに麓(約1,500m)の宿を出て約14時間ほとんど歩き続けながら放射線を測るという強行スケジュールでしたが、幸い天候にも恵まれ、予定どおり実施できました。
測定場所には、主な富士山登山道×2ルートを選びました。富士山中腹の河口湖登山口(標高2,300m)から吉田口ルートを山頂(標高3,730m)まで上り、須走口ルートを五合目登山口(標高2,000m)まで下山しました。
測定の対象とした放射線は、ガンマ線の空間線量率(周辺線量当量率、単位はµSv/h)及びエネルギースペクトルです。空間線量率は、市販のガンマ線サーベイメータ(アロカ社TCS-172B)を使用し、地表から約1mの高さで測りました(図1)。エネルギースペクトルの測定には、ガンマ線スペクトロメータ(EMFジャパン社製EMF211、モバイルPCに接続)を使用しました。

測定の結果、携行中サーベイメータ(時定数10秒)の指示値として目視で確認した空間線量率は、いずれの場所も毎時0.03~0.05µSvで、通常のレベルと変わりないことが確認されました。ガンマ線スペクトルについては、麓や両登山口の六合目より低い場所で放射性セシウム(Cs-134及びCs-137)のピークが検出されました(下図)。ただし、放射能量はわずかで、ごく小さい線量(年間数マイクロシーベルト以下)であると評価されました。
今回の測定で得られたデータについては、GPSで得た地理情報と照合して詳しい解析を行い、福島第一原発事故で環境に出た放射性物質の拡がりに関する予測の検証に役立てる予定です。
図 左は富士山麓(河口湖付近、標高約1500m)、 右は富士山頂(吉田方面、標高約3730m)で測定されたγ線エネルギースペクトル(測定時間10分)。山麓では原発事故に由来すると考えられる半減期約2年のセシウム134のピークが観られるが、山頂では認められない。
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