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提言 減災 -静岡新聞-

disaster reduction
静岡新聞「防災・減災」に掲載された内容を紹介しています。
長尾 年恭 東海大学客員教授
ながお としやす
東海大海洋研究所長兼地震予知・火山津波研究部門長。2016年4月より現職。専門は固体地球物理学。地元住民の立場から地震直前予知の研究を精力的に推進。
2023.11.26 「首都直下ガス対策急務」
 今年は関東大震災から100年という節自の年だった。この地震で旧陸軍被服廠跡では3万8千人を超える犠牲が出たが、その主因は火災旋風の発生というのが定説である。ところが、この火災で東京市(当時)内のあちこちで洋釘などの鉄製品が溶解した。鉄の融点は1500度を超えており、木材では最高でも1200度程度までしか到達しない事から、なぜ鉄が溶けているのかは謎であった。
 近年、信州大学の榎本祐嗣名誉教授が南関東ガス田由来のメタン火焔の噴出が火災旋風発生の大きな原因であったという激甚火災を裏付ける資料や証言を多数発見した。1855年の安政江戸地震は、発生が夜中だったため大地の割れ自から火が噴き出る様子が多数目撃されていた。さらに安政江戸地震のときに起きた同時多発火災の発生域と関東大震災の火災発生域はほぼ重っていた。これは、火災発生域の地下の浅いところに、南関東ガス田由来のメタンが存在していたと考えると合理的に説明できる。このメタンが地割れでできた新しい割れ目との相互作用で帯電・静電気着火して地表に火焔となって噴き出したと考えられる。
 2007年には渋谷で温泉施設の大規模な爆発事故が発生しているが、原因は南関東ガス田由来のメタンガスである事が明らかになっている。つまり東京の直下には大きな“火種”が存在しているのである。ちなみに地盤沈下を防止するため、東京都は1972年から天然ガス採取を全面停止し、揚水を規制している。そのため、東京駅の地下駅や、上野駅の新幹線駅などは、地下水位が上昇し駅筐体が浮き上がるという問題が生じている。
 このことは地下水位の上昇だけでなく、メタンガスもかつてないほど蓄積されている事を意味している。ガス漏れの監視あるいはガス抜きの対策を今すぐ開始することは、首都直下地震での火災発生被害の低減につながると考えられる。問題なのは防災に携わる専門家の間に、この問題に対する危機意識がまったく無い事である。筆者は首都直下地震の被害を減らすためにもメタンガス対策の立案・実施が急務と考えている。
2023.04.23 「新地球観確立した恩師」
 1月19日に筆者の指導教官であった上田誠也東京大名誉教授(日本学士院会員、元東海大学教授)が93歳で逝去された。東京大を定年退職後は「地震は物理現象なのだから予測できるはず」との信念で、東海大清水キャンパスにて短期直前の地震予知研究にまい進された。これは政府が取り組んでいる「地震発生確率評価(いわゆる30年予測、長期評価)」では、静岡県民の直接の役に立たないと考えたためであった。
 上田教授の一般的な名声はプレートテクトニクスの確立に貢献された事であろう。先生が40歳の頃に執筆された『新しい地球観』(1971年初版)は世界中で10を超える言語に翻訳され、世界中の若手研究者の座右の書となった。この本により「動かざること山の如し」は地球科学では大間違いで「動くこと大地の如し」が正しいと認知された。
 いまや地学という教科は絶滅危惧種とも言われているが、高校生の理科分野では最低限、天動説・地動説とプレートテクトニクスは学ぶようにとの指針が示されていることからも、その重要性を伺い知ることができる。プレートテクトニクスは現代の地球科学の恨底をなす概念で、学説というより数学の公理に近いものである。この考えにより、なぜ「ヒマラヤ山脈があれほど高いのか」についてもインド亜大陸とユーラシア大陸の衝突ということで明瞭に説明できるようになった。しかし、それまでは「どこに地震が発生するか」は観測により分かっていたが、「なぜそこで地震が発生するのか」は説明出来なかったのである。
 現代の科学はあまりにも細分化されており、今の日本には個々の分野では世界的に著名な研究者も多いが、上田先生はすべての地球科学分野で世界的にその名が知られていた最後の研究者の一人であった。これは日本の地球科学のみならず、あらゆる分野における
基礎研究の相対的な地盤沈下を意味しているのかもしれない。ちなみに88歳まで文科省の科学研究費を代表として獲得され、筆頭著者の論文も執筆されており、まさに生涯研究者を体現する存在であった。
2022.08.14 「関東大震災 余震 津波も」
 1923年9月1日、関東地方を未曽有の地震が襲いました。大正関東地震(関東大震災)です。この地震では火災により10万人を超える方が亡くなりました。そのため「地震だ、すぐ火を消そう」という事が言われるようになったのです。従って火災による被害ばかりが強調され、それ以外にどのような事が起きていたのか、多くの方の知識にはなっていないと推察しています。
 この地震は多くの大きな余震を伴ったのですが、その事がほとんど忘れさられているのです。気象庁の公式記録では本震発生後の2日間でマグニチュード(M)6.5以上の地震が11個発生していました。特に本震発生から1時間以内に、相模湾を中心に五つの大きな余震が発生しており、実際にはどの地震が火災の本当の原因であったかは区別できていないのです。
 また、鎌倉大仏(神奈川県鎌倉市)はこの地震で、全体が45センチほど前方に滑りました。実はこの事が大仏自体へのダメージを防ぐ効果があったようです。この経験を生かし、1960年から行われた改修上事では、台座と仏像の間にステンレス板を敷き、地震発生時には逆に滑リやすくするようにしたのです。さらに関東大震災では、相模湾で大きな津波が発生していました(真鶴で9メートル、由比ガ浜で9メートル、江ノ島で7メートルなど)。この事も火災被害ほどには一般に知られていないと思います。
 重要なのは、関東大震災のような相模トラフの沈み込みに伴って発生する津波は、東日本大震災と異なり、海溝(相模トラフ)が海岸から近いため、第1波は地震発生後、数分で海岸へ到達するのです。ここでーつ気がついたのは、相模“トラフ”という名称です。相模“悔溝”となっていないため、目の前に日本海溝のような沈み込み帯が存在している事をご存じない方もいらっしゃるのではないかという事です。トラフも海溝も地球科学的には差は無く、防災知識の啓発にはネーミングというのは重要な役割を果たすのではないでしょうか。
2022.03.27 「深刻なインフラ老朽化」
 3月16日深夜、福島県沖でマグニチュード(M)7.4の地震が発生し、東北新幹線に大きな被害が発生した。県内でも震度4が富士市、御殿場市で観測され、県東部の多くの場所で震度3となる大きな地震であった。この地震でも断水や停電などが数多く報告されたが、今回は、昨年10月7日に千葉県北西部で発生し東京で10年ぶりに震度5強を観測した地震が引き起こしたインフラ被害について考えてみたい。
 2021年10月7日午後10時すぎ、東京都北部で震度5強を観測する地震が発生した。足立区では、日暮里・舎人ライナーが脱輪し、復旧に4日ほど要した。これ以外に特徴的だったのは、ライフライン、特に水道への被害が数多く報告された事であった。
 都内では30カ所で漏水が発生し、マンホールから水が溢れ、水道管が破裂した所もあった。ちなみに水道のトラブルとして、地震が原因ではないが、この地震の4日前の10月3日に和歌山県で紀の川にかかる水道橋が突然落下するという事故が発生している。この水道橋が和歌山市北部への唯一の送水設備であったため、市内の約4割に相当する約6万世帯が仮設橋の設置まで5日ほど断水するという事態となった。近年このようなインフラトラブルに関する報道が多いと感じている。
 実は10月7日の千葉県北西部の地震とほぼ同じ場所で同規模の地震が2005年にも発生しており、同じく足立区などで震度5強を観測していた。ところが水道のトラブルは千葉県で2カ所発生しただけであった。この事実は、現在の日本は、上下水道や橋、トンネルなどのインフラの更新が財政難でほとんどできない世の中になってしまったという事を意味している。
 高度経済成長期に整備されたインフラがこれから続々と耐用期限を迎える訳であるが、今後の日本は人口減という事もあり、現状のままでは税収が増える要素はほとんどない。もはや現在の住宅地すべてに均等なインフラが提供できない状況が近づきつつあると考えられる。財政破綻した北海道夕張市が進めているようなコンパクト・シティといった事を真剣に考えなくてはいけない時期に来ているのではないだろうか。
2021.11.14 「日本海側にも拠点港を」
 日本港湾協会・港湾政策研究所のまとめによれば、貨物取扱量の多い日本の港湾のベスト10は、北九州を除きすべて太平洋岸ないし瀬戸内海の港が占めており、日本海側では唯一、新潟港が位に顔を出しているのが実情です。ちなみに貨物取扱量の圧倒的全国1位は名古屋港となっています。
 南海トラフ巨大地震では、その破壊のメカニズムから必ず大津波が発生します。安政東海地震発生時には、静岡県の海岸線は海溝軸からの距離の関係で、清水から御前崎付近までの地盤が1~2メートル隆起し、清水港は使用不能となりました。さらに巴川からの土砂流入で地震後には喫水が数メートル単位で浅くなる可能性も存在します。
 実際、宝永地震や安政東海地震の後には、巴川河口周辺で、幕府により大規模な浚渫(しゅんせつ)が行われました。換言すれば太平洋側の拠点港は、南海トラフ巨大地震の際には、その機能を大幅に失う可能性が高いのです。さらに桟橋の液状化対策工事が終わっていない港も多いと聞いています。その場合は、クレーンが傾く等の被害も予想されます。
 また昭和東南海地震のような政府・地震調査委員会が可能性として指摘している「半割れ」という事態が発生した場合には、たとえ港湾に被害が出ていなくても、まだ割れ残っている地域の港に海運業者は船を入港させたいとは思わないのではないでしょうか。
 もし、日本海側にハブとなる巨大拠点港があれば、実は災害時の輸送だけでなく、平常時の輸送にも活用できる訳です。現在、東アジアにおける代表的な貿易港は上海、シンガポール、そして韓国の釜山などが上げられます。たとえば釜山から新潟は距離も近く、輸送コスト的にも実際には有利かもしれません。拠点港の整備には港だけでなく、その後の国内輸送のインフラも併せて整備する必要があります。次の南海トラフ巨大地震は2030年代半ばに発生するとの説もあり、今から日本海側に巨大拠点港の整備を始める事はリスク分散の観点からも重要なのではないでしょうか。
2021.05.23 「魚は地震を予知するか」
 今年に人り、駿河湾でヨコヅナイワシという新種の深海魚の発見が報じられ、この魚は駿河湾に生息する生物の中で、生態系の頂点に立つ動物であるとも報じられた。いまだ深海には多くの謎が残されている事の証拠であろう。
 これまで深海魚の出現やクジラの座礁と地震とに関係があるのではないかという類の報道がなされる事が数多くあった。例えば東日本大震災の7日前に、茨城県鹿島灘で力ズハゴンドウが54頭打ち上げられた例などが「前兆だったのでは」と取り上げられた。
 海洋研究所では、織原義明・元特任准教授を中心に記録の洗い出しを行い、鹿島灘ではこのようなクジラの座礁は過去に何度も発生しており、それらは2月から4月という時期のみにみられた現象であった事を突き止めた。
 従って、この力ズハゴンドウの座礁と東日本大震災とを短絡的に結び付けるのは、科学的ではないとの結論に達した。次にリュウグウノツカイやサケガシラといった深海魚の目撃や捕獲例と地震との関係についての調査を行った。具体的には1928年から2011年までの約80年間の学術雑誌、全国の地方紙、水族館等が公開している情報を元に「深海魚出現力タ口グ」を作成した。
 その結果、336件の漂着や捕獲の事例が確認できた。次にそれぞれの深海魚出現日から30日後までに、出現場所から半径100キロ以内に発生したマグニチュード(M)6以上の地震を調べたところ、出現後に地震があったケースは07年7月16日の新潟県中越沖地震(M6.8)のみという結果になった。従って、これらの調査結果から、「深海魚出現は地震の前触れ」といった伝承は迷信と考えられると結論付けた。
 また地震は太平洋側に多いが、深海魚の記録はそのかなりの部分が日本海側だったのである。我々としてもこれらの伝承が防災に役立てばとの思いで研究を開始したのであるが、実際には防災情報として使う事は難しいとの結論になってしまった。
 ただし、これは深海魚等が地震に先行する異常を捉えていないという事を言っているのではなく、統計的には防災情報として役立つほど精度は高くないという意味である。東海大学ではこのような学際的な研究も引き続き実施していく所存である。
2021.01.10 「地震、雷、火事、コロナ」
 今の若い方にはあまり馴染みがないかもしれないが、昔から怖いものの代名詞として「地震雷火事親父」ということが言われてきた。2020年を振り返るといまや最後は「コロナ」になるのではないだろうか。この言葉はすでに1855年の安政江戸地震の後に出版された瓦版(鯰絵と総称)に見る事ができ、夏目漱石や太宰治の随筆の中でも描かれている。
 コロナが従来の感染症と最も異なるのは、感染しても無症状の方が多く、それが対策を困難にしている。たとえは地震や水害等が発生した場合、従来はその災害に対応する避難所を開設すれぱ事足りていたが、現在の状況下では、常に3密を避けるということを念頭に開設を行なわなければならず、収容定員が従来とは全く異なるという事態が生じている。すでに「避難所へ行ったが満員で断られた」ということも耳にする。
 また従来から日本の避難所は“体育館での雑魚寝”という状況から脱却できておらず、非常に環境が悪い。実は筆者が深く関係するフィリピンの地震火山プロジェクトで、昨年大きな火山噴火があり、多くの避難所が開設されたのであるが、家族ごとにプライバシーが保てるテントが体育館の中に設置されており、日本よりはるかに進んでいた。2021年の避難所は生活瑣境も考慮した避難所元年とすべきであろう。県地震防災センターでも企画展「ウィズコロナ時代における避難所運営」が2月末まで開催されている。
 昨年は日本列島およびその周辺では2月に択捉島沖でマグニチュード(M)7.2の地震が発生したが、地震学的には極めて静かな1年であった。本州付近でM7を超える地孟が発生したのは、2016年11月まで遡り、この地震では東日本大震災以降で唯一の津波警報が発令された。3月で大震災から丸10年となるが、避難所が想定の見直しで、浸水域に設置されているケースも散見される。地震災害における避難は長期間にわたることも多く、コロナも考慮しなければならず自治体担当者も苦慮しているのではないだろうか。今後の避難所は複合災害に備えた環境・体制づくりが強く望まれる。
2020.08.23 「誤速報に見た意識変化」
 7月30日午前9時半すぎ、気象庁は関東や東海などの広い範囲に緊急地震速報を発表した。しかし実際には揺れは観測されなかった。その後、気象庁は「誤報」であったとの記者会見を行った。
 気象庁の会見では、午前9時36分ごろに、東京・鳥島近海を震源とするマグニチュード(M)6.0の地震が発生していた。この地震の揺れを八丈島や三宅島等の観測点で観測した結果、震源を房総半島南方沖でM3.6から3.9の地震が発生したと判断した。
 実はこの点が今回の誤報で最も不可思議な点だ。これまでも深い所で発生した地震の場合、複数の観測点に到着する地震波の到達時間にあまり差が無いため、震源位置の推定が難しく、一般的に深さ150キロより深い所で発生した地震では速報を出していない。
 今回の地震の場合、観測点が伊豆の島々だけに直線的に並ぶという不利な点はあるが、震源がはるか南でかつ浅い地震なので、揺れは必す八丈島に先に到着し、その後に三宅島、伊豆大島と到着する。従って房総半島沖に震源位置を誤って決定してしまう事は原理的には無いと考えられるのだか、なんらかの原因で房総半島南方沖と決定してしまった。
 その後、この(誤って求めた)震源から遠く離れた小笠原諸島の母島でも大きな地震波が観測された。ところが、房総半島南方沖と最初に求めた震源位置が変更されなかったため、システムは母島に大きな地震波が届いているとすれば、より規模の大きい地震が起きているはずと推定してMを7.3と大きく修正し、今回の緊急地震速報となったのである。
 実はこの誤報の後のSNS(会員制交流サイト)上の議論をみると、「本番の南海トラフ地震でなくてよかった」「不意打ちよりはましと思う」「このような機会を訓練に活用したら」等のコメントが多く、批判は相対的に少なかったようである。筆者が考えるに、日本の防災リテラシーについて、実は大きな変化が生じているのではと推察される出来事であった。
 防災の日も目前に迫っているが、南海トラフ巨大地震は"想定済み"の危機であり、誤報を責めるより、逆に訓練に利用しようといった住民の意識改革が人的被害を減らす原動力になるのではないだろうか。
2020.04.12 「避難所の感染症対策を」
 世の中、新型コロナ一色という状況となっている。今、防災の観点から最も懸念すべき事は、このような感染症が流行している時に地震等で避難所を開設する場合の具体的対策である。ちなみに過去には複合災害が発生していた事は肝に銘じておくべきであろう。古くは安政東海地震で、福井県や岐阜県で積雪が影響したと思われる家屋倒壊が多く報告されている。
 積雪期の火山噴火では、泥流の発生で遠く離れた下流域で大きな被害が生じた例もある。1985年のコロンビア・ネパドデルルイス火山の噴火では、100キロも離れた都市アルメロが突然泥流に襲われた。人口は2万9千人弱であったが、そのうちの約4分の3にあたる2万3千人が亡くなり、5千人の負傷者が出た。つまり住人の人部分が被災するという悲劇が発生した(アルメロの悲劇)。
 この噴火では、アルメロの人々が火山灰の泥に埋もれ身動きが取れなくなり、救助も行えないまま多くが亡くなっていった。中でも13歳の少女のオマイラ・サンチェスさんは、下半身が水中で挟まり、首と手だけが水の上に出た状態で救助を待ち続けたのであるが、結果として助ける事ができず、3日後に衰弱死した。救助を待っ彼女の写真と、息を引き取った後、水の中に沈んでゆく映像は世界中に報道され、衝撃を与えた。
 新型コロナは現時点では特効薬が無く、ワクチンも存在しないため、避難所がクラスターとなる可能性は極めて大きい。だからと言って避難所を開設しないという選択肢は存在しない訳であるから、今から最悪を想定してノロウイルスやインフルエンザ以上の対策を考えておく必要がある。
 地震後の避難は長期間に渡ることも多く、できるだけ自宅で暮らせる事がプライバシーの点でも、感染症を防ぐためにもベストなのである。そして自宅で暮すためには自宅に十分な耐震強度が備わっている事が最低条件である。
 日本の避難所の状況は基本的に何十年も変わっておらす、体育館で雑魚寝という状況から脱却できていない。最近では段ボール製の簡易べッド等も開発されているが、プライバシー確保の点では極めて不十分である事は皆さまよくご存じであろう。
2019.11.24 「地震火山庁の設置必要」
 日本の地震および火山監視は気象庁が主に担当しているが、関連する観測は国土地理院(地殻変動)、海上保安庁(海底地殻変動等)、地質調査所(活断層等)、それと大学をはじめとする文科省の複数機関(防災科学研究所、海洋研究開発機構)が担当している。それに対し、米国では米国地質調査所が一元的に観測業務等を担っている。内閣府によれば、米国に限らずイタリア、インドネシア、フィリピンといった地震火山国には監視と研究を一元的に担う機関がある。しかし気象庁は原則として異動があり、専門人材を育てる仕組みが極めて弱い。監視業務は地震も火山墳火も盆暮れ正月や土日を避けてはくれないので、24時間体制で対応できる現業官庁がその任に当たる事が必要である。
 今後想定される南海トラフ沿いの巨大地震や、富士山噴火、首都直下地震などに備えるためにも、一元化して国民に情報発信していく事が肝要であり、それが地震火山庁が必要と考える理由である。実際、2014年の御嶽山噴火の被害を大きくした理由の一つが、研究者・行政・国民の間で情報の共有がなされていなかった事が主因とも考えられる。迅速な情報共有のためにも統一的な組織が必要で、さらに分かりやすいポータルサイトの構築は地震火山庁の大きな役目である。
 また同時に気象予報士制度を模した地震火山予報士制度ともいうべき制度の設立を提案する。名前は気象と対にするという意味で地震火山"予報士"とここでは呼ぶが、もちろん今すぐに"地震予報"が出来るという意味ではない。これは降水確率予報が市民に定着したように、地震火山予報士に地震や火山噴火の発生確率の数値を正しく理解してもらう等の啓発活動を継続的に実施してもらう。たとえば火山活動で言えば山体膨張の程度など、現在の地下状況の理解を広く国民に啓発する役目を持つ。またこれは現在複数の民間会社が提供している"科学的根拠のない地震予知情報"を淘汰(とうた)するという意味も持つ。それは気象予報士が制度として存在する日本では、気象に関する偽の情報を発表する人はまったく出てこない、ということから容易に学ぶことができるであろう。
2019.07.14 「津波の仕組み 理解を」
 6月18日、山形県沖でマグニチュード6.7の地震が発生し、1メートルの津波が予想されるとして、津波注意報が発令された。幸い観測された津波は10センチ程度。また揺れも震度6強を新潟県村上市で記録したが、大きな被害はなかった。これは日本の住宅が一般には極めて強いことを示している。
 津波の基礎知識として、まず津波が伝わる速度が極めて速いことを認識する必要がある。津波の伝わる速さはその地点の水深だけで決まり、水深が深いはど速く伝わる。例えは水深4千メートルの海では、およそ時速700キロにも達し、駿河湾でも時速200~300キロとなる。つまり太平洋を伝わる時にはジェット機並み、駿河湾でも新幹線並みの速さとなる。
 そして陸上でも時速40キロほどで伝わるので、海岸に出て津波が本当に来るのかを確認するというのは自殺行為である。ただしサニプラウン選手や桐生選手のように100メートルを10秒で走る自信のある方はその限りではないが、そのスピードを100メートルではなく、1キロは維持できることが条件となる。
 津波が発生するのは ①海域で地震が発生 ②海底面まで地震による変位(断層運動)が到達した時-である。経験的に海底まで変形が現れるためには、マグニチュード6.5程度の大きさの地震が必要となる。したがってマグニチュード5の地震では原理的に海底面まで変動が到達せず、津波は生じない。
 それなのになせ気象庁はマグニチュードの発表と同時に津波の有無を発表しないのかと言うと、極めて稀ではあるが「津波地震」と呼ばれる地震が存在するためだ。体に感じる揺れそのものはあまり大きく無いものの、大きな津波を発生する地震で、この調査に少し時間をかけているのである。
 南海トラフ沿いの地震でも、1605年に発生した慶長地震は津波地震とされる。地震動の被害としては、淡路島や徳島の一部で報告されているのみであるが、揺れがほとんど記録されていない房総半島から九州にかけての広範囲で高さ10メートル以上の津波が襲い、溺死者は1万人以上であったとされている。津波地震という言葉をこの機会に覚えていただきたい。
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