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提言 減災 -静岡新聞-

disaster reduction
静岡新聞「防災・減災」に掲載された内容を紹介しています。
長尾 年恭 東海大学教授
ながお としやす
東海大海洋研究所長兼地震予知・火山津波研究部門長。2016年4月より現職。専門は固体地球物理学。地元住民の立場から地震直前予知の研究を精力的に推進。
2020.08.23 「誤速報に見た意識変化」
7月30日午前9時半すぎ、気象庁は関東や東海などの広い範囲に緊急地震速報を発表した。しかし実際には揺れは観測されなかった。その後、気象庁は「誤報」であったとの記者会見を行った。
気象庁の会見では、午前9時36分ごろに、東京・鳥島近海を震源とするマグニチュード(M)6.0の地震が発生していた。この地震の揺れを八丈島や三宅島等の観測点で観測した結果、震源を房総半島南方沖でM3.6から3.9の地震が発生したと判断した。
実はこの点が今回の誤報で最も不可思議な点だ。これまでも深い所で発生した地震の場合、複数の観測点に到着する地震波の到達時間にあまり差が無いため、震源位置の推定が難しく、一般的に深さ150キロより深い所で発生した地震では速報を出していない。
今回の地震の場合、観測点が伊豆の島々だけに直線的に並ぶという不利な点はあるが、震源がはるか南でかつ浅い地震なので、揺れは必す八丈島に先に到着し、その後に三宅島、伊豆大島と到着する。従って房総半島沖に震源位置を誤って決定してしまう事は原理的には無いと考えられるのだか、なんらかの原因で房総半島南方沖と決定してしまった。
その後、この(誤って求めた)震源から遠く離れた小笠原諸島の母島でも大きな地震波が観測された。ところが、房総半島南方沖と最初に求めた震源位置が変更されなかったため、システムは母島に大きな地震波が届いているとすれば、より規模の大きい地震が起きているはずと推定してMを7.3と大きく修正し、今回の緊急地震速報となったのである。
実はこの誤報の後のSNS(会員制交流サイト)上の議論をみると、「本番の南海トラフ地震でなくてよかった」「不意打ちよりはましと思う」「このような機会を訓練に活用したら」等のコメントが多く、批判は相対的に少なかったようである。筆者が考えるに、日本の防災リテラシーについて、実は大きな変化が生じているのではと推察される出来事であった。
防災の日も目前に迫っているが、南海トラフ巨大地震は"想定済み"の危機であり、誤報を責めるより、逆に訓練に利用しようといった住民の意識改革が人的被害を減らす原動力になるのではないだろうか。
2020.04.12 「避難所の感染症対策を」
世の中、新型コロナ一色という状況となっている。今、防災の観点から最も懸念すべき事は、このような感染症が流行している時に地震等で避難所を開設する場合の具体的対策である。ちなみに過去には複合災害が発生していた事は肝に銘じておくべきであろう。古くは安政東海地震で、福井県や岐阜県で積雪が影響したと思われる家屋倒壊が多く報告されている。
積雪期の火山噴火では、泥流の発生で遠く離れた下流域で大きな被害が生じた例もある。1985年のコロンビア・ネパドデルルイス火山の噴火では、100キロも離れた都市アルメロが突然泥流に襲われた。人口は2万9千人弱であったが、そのうちの約4分の3にあたる2万3千人が亡くなり、5千人の負傷者が出た。つまり住人の人部分が被災するという悲劇が発生した(アルメロの悲劇)。
この噴火では、アルメロの人々が火山灰の泥に埋もれ身動きが取れなくなり、救助も行えないまま多くが亡くなっていった。中でも13歳の少女のオマイラ・サンチェスさんは、下半身が水中で挟まり、首と手だけが水の上に出た状態で救助を待ち続けたのであるが、結果として助ける事ができず、3日後に衰弱死した。救助を待っ彼女の写真と、息を引き取った後、水の中に沈んでゆく映像は世界中に報道され、衝撃を与えた。
新型コロナは現時点では特効薬が無く、ワクチンも存在しないため、避難所がクラスターとなる可能性は極めて大きい。だからと言って避難所を開設しないという選択肢は存在しない訳であるから、今から最悪を想定してノロウイルスやインフルエンザ以上の対策を考えておく必要がある。
地震後の避難は長期間に渡ることも多く、できるだけ自宅で暮らせる事がプライバシーの点でも、感染症を防ぐためにもベストなのである。そして自宅で暮すためには自宅に十分な耐震強度が備わっている事が最低条件である。
日本の避難所の状況は基本的に何十年も変わっておらす、体育館で雑魚寝という状況から脱却できていない。最近では段ボール製の簡易べッド等も開発されているが、プライバシー確保の点では極めて不十分である事は皆さまよくご存じであろう。
2019.11.24 「地震火山庁の設置必要」
日本の地震および火山監視は気象庁が主に担当しているが、関連する観測は国土地理院(地殻変動)、海上保安庁(海底地殻変動等)、地質調査所(活断層等)、それと大学をはじめとする文科省の複数機関(防災科学研究所、海洋研究開発機構)が担当している。それに対し、米国では米国地質調査所が一元的に観測業務等を担っている。内閣府によれば、米国に限らずイタリア、インドネシア、フィリピンといった地震火山国には監視と研究を一元的に担う機関がある。しかし気象庁は原則として異動があり、専門人材を育てる仕組みが極めて弱い。監視業務は地震も火山墳火も盆暮れ正月や土日を避けてはくれないので、24時間体制で対応できる現業官庁がその任に当たる事が必要である。
今後想定される南海トラフ沿いの巨大地震や、富士山噴火、首都直下地震などに備えるためにも、一元化して国民に情報発信していく事が肝要であり、それが地震火山庁が必要と考える理由である。実際、2014年の御嶽山噴火の被害を大きくした理由の一つが、研究者・行政・国民の間で情報の共有がなされていなかった事が主因とも考えられる。迅速な情報共有のためにも統一的な組織が必要で、さらに分かりやすいポータルサイトの構築は地震火山庁の大きな役目である。
また同時に気象予報士制度を模した地震火山予報士制度ともいうべき制度の設立を提案する。名前は気象と対にするという意味で地震火山"予報士"とここでは呼ぶが、もちろん今すぐに"地震予報"が出来るという意味ではない。これは降水確率予報が市民に定着したように、地震火山予報士に地震や火山噴火の発生確率の数値を正しく理解してもらう等の啓発活動を継続的に実施してもらう。たとえば火山活動で言えば山体膨張の程度など、現在の地下状況の理解を広く国民に啓発する役目を持つ。またこれは現在複数の民間会社が提供している"科学的根拠のない地震予知情報"を淘汰(とうた)するという意味も持つ。それは気象予報士が制度として存在する日本では、気象に関する偽の情報を発表する人はまったく出てこない、ということから容易に学ぶことができるであろう。
2019.07.14 「津波の仕組み 理解を」
6月18日、山形県沖でマグニチュード6.7の地震が発生し、1メートルの津波が予想されるとして、津波注意報が発令された。幸い観測された津波は10センチ程度。また揺れも震度6強を新潟県村上市で記録したが、大きな被害はなかった。これは日本の住宅が一般には極めて強いことを示している。
津波の基礎知識として、まず津波が伝わる速度が極めて速いことを認識する必要がある。津波の伝わる速さはその地点の水深だけで決まり、水深が深いはど速く伝わる。例えは水深4千メートルの海では、およそ時速700キロにも達し、駿河湾でも時速200~300キロとなる。つまり太平洋を伝わる時にはジェット機並み、駿河湾でも新幹線並みの速さとなる。
そして陸上でも時速40キロほどで伝わるので、海岸に出て津波が本当に来るのかを確認するというのは自殺行為である。ただしサニプラウン選手や桐生選手のように100メートルを10秒で走る自信のある方はその限りではないが、そのスピードを100メートルではなく、1キロは維持できることが条件となる。
津波が発生するのは ①海域で地震が発生 ②海底面まで地震による変位(断層運動)が到達した時-である。経験的に海底まで変形が現れるためには、マグニチュード6.5程度の大きさの地震が必要となる。したがってマグニチュード5の地震では原理的に海底面まで変動が到達せず、津波は生じない。
それなのになせ気象庁はマグニチュードの発表と同時に津波の有無を発表しないのかと言うと、極めて稀ではあるが「津波地震」と呼ばれる地震が存在するためだ。体に感じる揺れそのものはあまり大きく無いものの、大きな津波を発生する地震で、この調査に少し時間をかけているのである。
南海トラフ沿いの地震でも、1605年に発生した慶長地震は津波地震とされる。地震動の被害としては、淡路島や徳島の一部で報告されているのみであるが、揺れがほとんど記録されていない房総半島から九州にかけての広範囲で高さ10メートル以上の津波が襲い、溺死者は1万人以上であったとされている。津波地震という言葉をこの機会に覚えていただきたい。
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